【INTERVIEW】「ポール・ボキューズ」 クリストフ・ミュレールシェフ

ムッシュー・ポールの後継者が語る、これからの「ポール・ボキューズ」。

2019年5月9日、東京・代官山「メゾン ポール・ボキューズ」にて、フランス・リヨンの「レストラン ポール・ボキューズ」総料理長クリストフ・ミュレールシェフ来日記念ガラディナーが開催されました。

 

今も世界中のシェフ、食通たちに多大なる影響力をもつ、ムッシュー・ポールことポール・ボキューズ氏。その後継者としてメゾンの未来を託されたクリストフ・ミュレールシェフにフランスと日本の「ポール・ボキューズ」の今後について伺いました。


クリストフ・ミュレール氏
1971年、フランス・アルザス生まれ。2000年にM.O.F.(国家最優秀職人賞)を受賞。
現在、「ポール・ボキューズ」の総料理長を務める。 

ゴ・エ・ミヨジャポン編集部(以下、GM編集部):
本日はお忙しい中、貴重なお時間を頂きありがとうございます。ミュレールシェフにとって、今回は何度目のご来日になりますか? 

クリストフ・ミュレールシェフ(以下、ミュレールシェフ):
4回目です。日本のことは大好きです! 食べ物はもちろん、人と人とが互いに尊重し合っている精神性が素晴らしいと思います。それに、わたしは日本の包丁の大ファンで、日本に来るたびに合羽橋に連れて行ってもらい、包丁をはじめ、様々な調理器具を見に行きます。

GM編集部:日本の調理器具のどんなところにご関心をお持ちなのでしょうか? 

ミュレールシェフ:
調理器具は料理の仕方や料理そのものを変えることがあります。たとえば、細かな盛り付けで使うピンセット。今でこそフランス料理でも当たり前のことになりましたが、あれは日本人のシェフが使い始めたものです。ピンセットを用いることで、トングや手で盛り付けるよりもずっと繊細な表現が可能になりました。


"同じように作っても、同じ味は絶対に出ないのが料理というもの。
大切なことはルセットや技術を伝承すること。
“完璧な再現”が不可能だからこそ、ルセットや技術の伝承が
料理の本質を支えているのではないでしょうか?"
               クリストフ・ミュレールシェフ


GM編集部:
今回の来日では、ガラディナーに加えて、都内のブラッスリー ポール・ボキューズ全店を回られ、技術指導をされるそうですね。

ミュレールシェフ:
わたしのミッションは、「ポール・ボキューズ」の技術を伝えることにあります。たとえばクリームソースひとつでも、たとえスタッフが予め準備しておいてくれたとしても、わたしは一から作るようにしています。正確な作り方や技術を直接伝えるためです。

GM編集部:
日本とフランスでは食材の味や味覚の違いなど、様々な違いがあると思います。技術指導をする上で大変だと感じることはありますか?

ミュレールシェフ:
日本の「ポール・ボキューズ」には大いに期待しています。各店舗のシェフの能力がとても高く、人格面でも素晴らしいスタッフばかりです。サービススタッフの質も高く、料理やサービスのクオリティに対して価格が安すぎると思うほどです!(笑) 優秀なスタッフばかりですから、日本とフランスが違う、という理由で難しさは感じていません。 



GM編集部:
たとえば、フランス料理に対する考え方や味覚なども日本とフランスで違う部分もあると思いますが、その点についてはいかがでしょうか?

ミュレールシェフ
たしかに昔は日本人の作るフランス料理は塩分控えめな傾向にありました。でも今は日本でもしっかり塩を使うようになり、味覚の違いはあまり感じません。ただ、フランスで食べる寿司よりも、日本で食べる寿司の方が美味しく感じることはありますよね。土壌や気候などの環境的な要素や、文化・歴史的な背景はたしかに違っているかもしれません。そうした違いはどこにでも存在します。それに、同じように作っても、同じ味は絶対に出ないのが料理というものです。でも、大切なことはルセットや技術を伝承すること。“完璧な再現”が不可能だからこそ、ルセットや技術の伝承が料理の本質を支えているのではないでしょうか。 

GM編集部:
ルセットや技術を伝達する上で、大切にしているのはどんなことですか? 

ミュレールシェフ:
「味」がすべてです。わたしはルセットを変えることは絶対にしません。バターの分量を変えるのではなく、火加減などの技術でレシピを現代的にアレンジします。たとえば、鶏肉は62度で蒸すと食感も味も良くなるのですが、こういう技術は経験的に体得するものですね。作り方を変えるのではなく、経験的に備わる技術力で現代風に仕上げていくのがわたしのやり方です。

GM編集部:
たとえば「1975年にエリゼ宮にてV.G.E.に捧げたトリュフのスープ」は、文字通り1975年から同じルセットが受け継がれていますね。 

ミュレールシェフ:
このスープは、ムッシュー・ポールが当時のフランス大統領ヴァレリー・ジスカール・デスタンからレジオンドヌール勲章を受勲したときに、そのお礼として作ったものです。ボキューズにとって記念すべきメニューですね。



GM編集部:
このスープを食べるたびに当時のエピソードが語り継がれ、人々の心に刻まれていく、まさに“伝統の味”ですね。そうした歴史をもつ「ポール・ボキューズ」という世界的なメゾンを背負っていくことについて、どのようにお考えですか?

ミュレールシェフ:
「ポール・ボキューズ」は素晴らしいチームによって成り立っています。M.O.F.を持つシェフが3人おり、メゾンを支えているのです。たとえば、いまわたしが日本にいる間は他の2人のシェフが「ポール・ボキューズ」の厨房を守っています。途切れることなく、安定的に良い仕事をすること。これはムッシュー・ポールが一番大切にしていたことです。ルセットや技術の伝承に加え、チームワークの強みを活かすこともメゾンの継承には不可欠でしょう。日仏ともに素晴らしいスタッフたちが一丸となってメゾンを支えている。わたしもその一人ですが、この強力なチームあってこその「ポール・ボキューズ」なのです。 

GM編集部:
本日は貴重なお話をありがとうございました。 

ミュレールシェフ:
ぜひガラディナーを楽しんでいってくださいね! 
(後編ではガラディナーの様子をレポートします)


2019年5月9日 メゾン ポール・ボキューズにて
取材:ゴ・エ・ミヨジャポン編集部 
撮影・協力:株式会社ひらまつ