「北海道のフランス料理」を掲げてこの地に34 年、オーナーシェフ中道博氏は今日も穏やかにゲストを迎える。どの皿もフランス料理の基礎の上に、オーソドックスでありながら他のどこでも味わえないものばかりだ。毛蟹のリゾットに野菜ブイヨンのカプチーノ仕立ては熱々のシュワシュワ。5 年くらい前からようやく使い始めたというエゾ鹿は白糠町の名ハンター松野穣氏のネックハンティングによるストレスフリーの肉。その希少なハツの部位を原野をイメージした緑のソースを配した皿の上で出されると、唸るほかない。素材が料理に変わる瞬間、その香りと熱をそのまま伝えるために厨房を担う今智行シェフとスタッフがどれだけ激しく動いているか、我々は一切感じることはない。生地を油で揚げたベニエにはきな粉がまぶされ、懐かしさを覚える。そうだ、中道氏の料理は表面の華麗さ、鮮やかさに目を奪われ、モダンなフランス料理だと思いがちだが、大元は家庭の味。優しさの源は、そこなのだ。こうした地域にあることを最大限に活かし、長く愛される店が全国に幾つも点在するようになった時、日本は真の「美食の国」になるのだろう。
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