竹筒には森のエッセンス、木の出汁。口に含むと森の精気が滲み渡る。箱庭のような盛り付けには、今、成澤氏が世界に発信する「里山文化」が凝縮されている。里山は自然の中に人も動物も共存する豊かな食の宝庫でもあった。成澤氏の旅は森から始まり、里山、人里、川、湖、そして海へと続く。2018 年、サンセバスチャンの世界料理学会でも喝采を浴びた成澤氏の「イノベーティヴ里山キュイジーヌ」は、今、世界に求められているサスティナビリティ、エコロジー、テロワール、多様な生き方を共有するダイバーシティという様々な課題への一つの回答かもしれない。常に時代を先取りしてきた成澤氏は分子ガストロノミーを越えて「自然(じねん)の精神」による豊穣な里山の美味の世界に辿り着いた。その料理は名だたるシェフのもとで修業したフランス料理より、和食の世界に極めて近い。まず、和紙の上の真っ赤な盃に日本酒を注ぎ、日の丸、ニッポンをホールの過半を越える海外客に見せる成澤氏。今は自分にしっくりくるという和の世界だが、ここが、ようやく50 代に入る成澤氏の到達点とは思えない。イノベーションこそが、この人の信条だ。
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