93 歳になる二郎さんは、その日も淡々と鮨を握った。「すきやばし次郎」のおまかせは、いつもひとり20 貫。まずマコガレイやヒラメなどの白身から始め、墨烏賊やシマアジなどを経て鮪( 赤身、中トロ、大トロ) で前半のクライマックス、その後にコハダの酸味で口の中をさっぱりさせ、後半のイクラや穴子に至る。淡い味から濃い味へという流れを感じさせる。その日のゲストとの出会いを一期一会のものと考え、全体を通しての心地よさを実感してほしいという思いがあるのだという。寡黙に鮨を握る二郎さんの横で「鮨は酢飯次第です」と語るのは、長男の禎一氏。やわらかく握られる人肌程のあたたかさの酢飯は、口に運ぶと、辛めできりっとしすぎているようにも感じる。しかし、このあたたかさと酸味が、鮨種と合わさると大きな力を発揮する。口に運ぶ瞬間に立つシマアジの香りと、噛みしめたときの酢飯と脂の合わさった旨みは、ゲストの誰もが忘れがたいものだろう。二郎さんの仕事を「凡事徹底」と表現した人がいた。普通のことを尋常ではない突き詰め方をした鮨からは、誰もたどり着けない境地に到達したすごみすら感じる。
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