マルコ・カンパネッラシェフ ー 日本の伝統をめぐる旅
ゴ・エ・ミヨ スイス 2025年「今年のシェフ賞」に輝いたマルコ・カンパネッラシェフが、日本で美食の旅を満喫
日本を深く味わう旅への出発
マルコ・カンパネッラ氏は、スイスの「La Brezza Ascona」「La Brezza Arosa」という2つのレストランを展開、そのいずれもで5トック 19点という高い評価を得ています。
自身の料理を「オープンワールド」だと語り、世界各国で見つけた素材や調味料、技術などを自身の料理に取り入れ、スイスの素材とバランスを取りながら料理にしていくと言います。
もちろん日本の食材や調理法も取り入れており、広島の「わさび味噌」や備長炭を取り寄せ、ソースや調理に活かしているのだそうです。
今回の5日間の日本を巡る旅は、スイス・ブルンネンに拠点を置く伝統的な日本の包丁の輸入と販売を行う企業、「ISSHO TABERU」によって企画されました。ガイド役は、同社の現地チームである黒岩トム氏とルリ氏が務めました。
2025年には「今年のシェフ賞」にも選ばれたカンパネッラ氏。今回の旅で何が一番印象に残ったのでしょうか?
料理学校の生徒たちとの出会いでしょうか? 「日本料理 龍吟」山本征治氏によるディナー? それとも、日本料理の伝統を守る職人たちとの出会いでしょうか?
カンパネッラ氏は、今回の旅についてこう語っています。
「日本を訪れるのは初めてではなかったので、大切なことを見逃してしまう心配はありませんでした。そのため本当に深く体験することができました」
【写真】武蔵野調理専門学校にて:生徒の皆さまと
調理師専門学校での生徒との交流
カンパネッラ氏は、まず、日本の料理全般に宿る、その調理へのこだわりの強さに感銘を受けたようです。
「ラーメンの出汁は、一見するとフランス料理のコンソメに似ているかもしれません。また、魚の天ぷらは、どことなく私たちの魚のフライに通じる部分があります。しかし、日本料理は常にそれを超える精密さを持っています。日本料理の中には、より深い意識、食材への理解、そして長い時を経て培われた伝統が込められているようです」
カンパネッラ氏がこのことを実感したのは、国内屈指の料理学校、武蔵野調理師専門学校でのことです。訪問時には、飯尾哲司校長が直々に教室や実習室を案内、調理を始める前に包丁を30分間かけて丁寧に研ぐ様子や、その後行われた「玉ねぎのブリュノワーズ」の授業を見学しました。
その後、カンパネッラ氏も「良いシェフはゲストを幸せにする -ただし、それはチーム全員が幸せである場合にのみ可能である」というテーマで講義を行いました。生徒たちはこのテーマに強い興味を示し、数え切れないほどの質問を投げかけ、対等な立場でトップシェフと生徒たちの間の交流が行われました。
「生徒たちは19歳から20歳の若さですが、私がこれまで見たことのないほど意欲に満ちていました」
【写真】福井の魚市場にて:午前3時30分に営業が始まり、数時間後にはすべてが売り切れます
魚市場と工房訪問
旅の3日目、カンパネッラ氏は日の出前の午前3時30分から福井県の魚市場の競りに参加しました。その様子を彼は「制御された混沌」と表現し、特に感銘を受けたのは、短時間で何トンもの魚が競りにかけられていたことだといいます。
「銀鱈を求める店があれば、エビを探す店もあり、最終的には、最後の1匹まですべてが売り切れていました」
その後、福井県越前市にある85歳の刀鍛冶・南部俊樹氏の工房を訪問。南部氏は「ISSHO TABERU」用の包丁を製造する職人の一人です。南部氏の、炎の色だけでその温度を見分ける技術には、「私たちの厨房にあるような、温度を正確に測る機器は、彼には一切必要ないのですね!そして、すべてのハンマーの打撃も完璧です」と、驚嘆していました。工房が暗くしてある理由も理解できたと言います。
カンパネッラ氏は、南部氏の職人の技を目の当たりにし、「自分も80代になってもまだ厨房に立っていたい」と語り、そして、日本の鍛冶技術に対する尊敬の念もさらに深まったようです。
「これからは決して、包丁を流しにぞんざいに置きっぱなしにすることはできないと感じました。作業が終わった後には、敬意を持って手入れしなければ」
【写真】左)85歳にして今も毎日働き続ける刀鍛冶の南部俊樹氏 中)包丁を大切そうに見つめるカンパネッラ氏 右)炎の色で温度を調整する南部氏
鰹節工房、続く伝統
カンパネッラ氏一行は、伊豆半島にある「カネサ鰹節商店」を訪れました。ここでは、芹沢家が五代にわたり手火山式焙乾製法で鰹節を製造しています。
「乾燥、塩漬け、燻製—すべて手作業で行われています」と語るカンパネッラ氏。「すべて手作業でありながら、毎月10トン以上の魚が加工されているとは」とその規模に驚いた様子です。
【写真】左)魚とポーズ:芹沢安久氏とカンパネッラ氏 中)鰹節の原料となる魚は、燻製にするなどして加工されます 右)「カネサ鰹節商店」は、五代にわたって営まれている工房です
鯨のさえずり、スッポン、からすみ
多くの出会いを経て、一行の空腹が高まったことは想像に難くありません。旅の最後の夜に予定されていたのは、5トック19点の評価を得ている東京「日本料理 龍吟」での14品の豪華なディナーでした。シェフ山本征治氏は、ゴ・エ・ミヨ日本版で、2019年に「今年のシェフ賞」を受賞しています。日本料理のルーツを伝えたいという思いから、現在ではアジアでも珍しくなりつつある食材を用意し、通常よりも伝統的な調理スタイルで腕を振るってくれたようです。
「アワビはヨーロッパにもありますが、こんなに新鮮で純粋な状態で味わったのは初めてです」とカンパネッラ氏は語ります。しかし、それだけでは驚きは終わりませんでした。テーブルには、鯨のさえずりと筍、わかめ、さらにウナギと茄子、日本のからすみ、そしてスッポンのお椀までもが並びました。
「私たちが知っている日本料理とは全然違いました!」とカンパネッラ氏は笑顔で感想を述べました。
【写真】左)山本氏は、カンパネッラシェフから贈られたティチーノの粉で何を作るのか? 右)山本氏が、芸術的な筆づかいでカンパネッラ氏へのメッセージをしたためていきます
互いへの贈り物
この晩、カンパネッラ氏は、スマートフォンを取り出すのを控えていました。それが、この体験を一層特別なものにしたと彼は言います。
「子供の頃に遊んでいたときの感覚に似ていました。完全にその瞬間に没頭し、食事を楽しみ、旅の話に花を咲かせていたら、あっという間に5時間が過ぎていたのです」
そして最後に、スイスと日本のシェフは厨房で親交を深め、お互いに贈り物を手渡しました。山本氏には、ティチーノ地方のファリーナ・ボナ(トウモロコシ粉)とスイスのアルプチーズが、カンパネッラ氏には美しい筆跡でサインされた山本氏の料理本が贈られました。
今回の旅でたくさんの出会いやインスピレーションを得たカンパネッラ氏。
日本で得た経験が素晴らしいものとして記憶に残り、また、それが遠いスイスの地でどのように活かされていくのか、興味は尽きません。
記事 = Daniel Böniger 執筆( Gault & Millau Switzerland) 日本版編集 = ゴ・エ・ミヨ ジャポン編集部